ロスの怪談

今週のお題「夏に聞きたい、怖い話」
日本で、不動産バイヤーをしていたので、国産の怪談も多く知っているわけですが、今回はステイツのロス近郊で聞いた話。

犯罪が原因で空き家になった物件の場合、ステイツでは仏教国の家族に、1年ほどタダで家を貸すことがある。

銃社会で起こる犯罪なので、かなり凄惨な事件が多く、そのままではさすがに借り手も買い手も付きにくい。
そこで、どうせ客が付かないなら、幽霊が出ないと思わせるために、東洋の神秘で証明しようと言うわけだ。

敬虔な仏教徒は、毎日お祈りを欠かさないし、線香を炊くなどするので、傍目にも何だか霊魂を敬い鎮めているように見えるらしい。
物件情報にも、東洋人一家が在住した物件です、と記載し、中を見せる時にも、生活したままの状態を案内する会社もある。
欧米人にしてみれば、キリスト教の鎮魂より、仏教徒日課の方がスピリチュアルな印象を受ける、ということだ。


さて、これはロス近郊の中流タウンの家であった実際の事件。
子供二人を含む一家5人が、二人組の強盗に襲われ、不幸にも皆殺しにあった。
少しイカれた犯人だったらしく、死体の状態は凄惨で、家内を10mも引き摺った後まで残っていた。

事件後、犯人は捕まらず、家は売りに出たのだが、当然客は付かなかった。
そこで、ある東洋人の一家が、そこに住むことになったのだが、数日もしない内に斡旋した不動産屋に現れた。
契約を破棄して、すぐにでも家を出たいと言う。
この申し出に担当者は眉をひそめた。
通常は、余り豊かではない一家が、賃料が無料だという魅力に釣られて住むので、こんなケースは珍しい。
霊など信じていない担当者は、他の理由があるに違いない、と考え、探りを入れたが、一家は出ていきたいの一点張り。
代わりなら、幾らでもいるさ、と退去を認め、すぐに他の一家を充てがった。

ところが、この中国系の一家も、一ヶ月もせずに退去したいと願い出た。
その後も何回か入れ替えたのだが、さすがに担当者も気味が悪くなってきた。
どの家族も具体的な話は何もしないので、実際に何が原因なのか分からない。

そうこうしている内に、価格の安さに惹かれて、借り手が付いたので、担当者も一安心して、この件を忘れていった。
それから、1年ほどした頃、担当者が会社に出勤すると、何やら社員が集まって話し込んでいる。
皆は、担当者の顔を見ると、すぐに話しかけてきた。
「あの家の担当は、君だったよな?」
そう言われて、あの家か、と直ぐに思い当たった。
「・・・、また、強盗が入って、みんな殺されたそうだぞ」
その瞬間、担当者の背筋に冷たいものが走った。
厄除けの家族たちは、こうなることを感じて、みな一様に逃げ出したのか、と直感したという。

霊ぐらいではビクともしない筈の彼らも、家が良くない物を呼び寄せていると感じれば、賃料どころではあるまい。

後日、その家は担当者の強い意向で、解体され更地で売りに出された・・・。



この厄除け商法は、アメリカ南西部や大都市では珍しくない。
日本人が思う以上にステイツの人間は、霊を信じている。
キリスト教徒が多いのが原因で、死後の世界や霊魂の存在を否定しないのである。

私は、霊の存在には懐疑的だが、人間もエネルギーの塊である以上、死後に何らかの残留物が残る気はする。
それが、思念なのか、感情なのかは知らないが、こういった中のマイナスの要素が吹き溜まれば、そこは運が悪い場所になっている、のかもしれない。