三が日

正月に口を切った清酒
僅か180mlの小瓶が、ようやく空いた。
文字通り、チビチビ舐めるようなペースで、じんわりとホロ酔い気分が楽しめた。
1時間でスコッチ一本空けていた昔とは、色んな意味で違う。

雑煮の汁も使い切り、日持ちのしない料理は食べ終えた。
明日からは、いつものペースに戻そう。

TVで、オオスズメ蜂を食べる地方が紹介されていたので、何となく懐かしいなぁと思っていたら、私の祖父が住んでいた近所だった。
私は、ある事情で、5歳まで母方の祖父宅で育てられたので、子供の頃に普通に食べていた。
当時から無茶苦茶な山奥で、町から2時間掛けて軽トラックが演歌を鳴らしながら商品を売りに来るので、雑貨や菓子類はそれでしか買えない。
しかも、週に一度で、保冷車も無かったので、祖父は新鮮な海産物を食べる機会が無かった。
と、いうわけで、山の幸で補うわけだが、蜂の巣は当然として、セミ、蛇、何かの幼虫、亀、と色物フルコースであった。

中でも、一本道の全てが親戚という環境で、一応は本家だった祖父宅は一番どんつきにあった。
例のトラックも順番に上がってくるので、最終地点である祖父宅では、そもそも商品自体が残っていないことも、しばしば。
どうしても必要な物は取り置きしてくれるが、そんなに積めるわけではないので、暗黙のルールで無理は言えない。

昔の話も聞いたが、食事は地産地消が基本で、精米や調味料も家でやる。
食べられる物は、何でも試してきたそうで、蜂の巣などは秋のみの大ご馳走だった。
ちなみに赤蜂(多分、ミツ蜂の仲間)を屋根裏で飼っていて、家の中も飛び回るのだが、刺されても大丈夫、と教えられていた。
アブの方が痛い、という理由だったが、それで納得していた自分が少し可愛い。
赤蜂の巣は蜜が甘くて、蜂の子も美味しかった記憶が残っている。
祖父は、尻の方をつまんで、針を残して食べていた。
今思えば、かなりの難易度だと感じるが、真の田舎というものは、こういう生活である。

思いがけずTVの御蔭で、幼い頃の思い出が甦った。
正月から、今は無くなった故郷を思い出すことができて、切ないが懐かしい。
山奥の正月は、華はないが良い正月だった、と古き宴を思い出す。