目線

堅い話ではない、ちょっとしたイタズラだ。

相手と会話をしている最中に、目線を肩口に移動して、目を見開く。
コツとしては、すぐに瞬きをしたり、首を振ったりして、戸惑った表情を浮かべる。
何か?と聞かれたら、バツが悪そうに否定してみせる。

グレードアップ版として、椅子から転げ落ちるように逃げ出す、というのもあるが、相手を選んでやらないと、後で怒られるどころでは済まない。

これ、やられてみると、意外に効く。
人は自分の後ろを見るようには出来ていないので、本能的にも背中側の視野は死角であり、常に警戒しているものだ。
私は、後ろからソ〜ッと近づいてという類のイタズラには、全力で反撃してしまうので、子供の頃には違う意味で怖がられた。

三流ホラー映画で、未だにこういうシーンを観ると、ある意味で鉄板だな、と苦笑してしまう。
最近は、天井方面から来るのが流行っているようなので、目線を工夫するのもいいだろう(何がいいのか)。
テーブルの下辺りも面白いが、やはり肩ごしが一番だ。

昔、幽霊が見えると自称する他校の生徒を部室に招いたことがある。
新築して3年目の4階だったのだが、部室の隅に女の子が座っていると言い出した。
例によって、浮遊霊が憑りついたとか説明を始めたのだが、先輩は部室の隅に歩いていくと「ここ?こんな感じかな?」と座り込んで見せた。
これには、自称霊能者も何も言えなくなり、すぐにお帰りとなった。
万に一つも真実味がない話だが、それにしても度胸があるもんですね、と尋ねると「女児が泣いてるなんて言う方が悪い。可哀想じゃないか。これがオッサンの霊とかだったら、俺も座り込めないさ」と、よく分からない返答を得たのを覚えている。

さて、私は一般的な幽霊話は99.9%信じてはいないが、0.01%だけ残している。
どうしても理屈では解決できそうもない事件を知っているからだが、生きていても怖い人間が、実体もなく精神だけで存在しているとしたら、これほど怖いことはない。