コピーキャットの短絡的な行動

コピーキャット:Copycatとは、手法を真似ること、特に犯罪行為を模倣する行為に使われる。
斬新で衝撃的な犯罪から、単に結果のみをなぞるものまで、模倣の段階は様々だ。

自分のことを特別であり、他人に正しく認識されていない、と信じ込んでいる人種がいる。
だが、往々にして、この手合いは正しい認識をされているから、現在の境遇にあることを認めようとはしない。
他人からすれば苦笑ものだが、当の本人は大真面目で、肥大した根拠の薄いプライドを守る為に、暴走した挙句に凶悪な犯罪で歴史に残ろうとする。
完全に方向を間違えているが、それぐらいしか思いつかないからこそ、小人は怖いのだ。

ところが、元々大した知識も経験もないので、過去の犯罪を斜め読みして、マニュアル頼りに、どうにか実行に移す。
アメリカ犯罪史には、ほぼ10年に一度ぐらいのスパンで、無差別大量殺人が発生するが、模倣犯にはこれが簡単に有名になる手段に見えるらしい。
そして銃器を抱え込んで、人の集まる場所で乱射するのだが、思ったより命中しなかったり、周囲の人に反撃を受けるパターンや撃つだけ撃って茫然自失で逮捕されるケースも珍しくない。
お粗末な話だが、本当に悪事を行なうのを呼吸するように出来る人間と、どこか逃げ腰で無計画に行なう人間とでは、肝の据わり方が違う、ということだ。

時計台の狙撃手:チャールズ・ホイットマン
散歩する殺人者:ハワード・アンルー(12分で13人を射殺)
ナース・キラー:リチャード・スペック(一晩に8人殺害)
毒殺魔:グレアム・ヤング
上記2名は軍役帰り、チンピラ、精神異常と並ぶ。
彼らは、模倣犯では無い。
他にも映画化された伝説的なシリアル・キラーは何人も存在するが、それぞれの理由で実行している点で、その影響力も強いのか、後にコピーキャットを何人も生み出している。

私が興味深かったのは、チャールズ・ホイットマンで、海兵隊あがりの狙撃の腕と大量の銃器を駆使した点と、犯行に至る経緯(犯行中も)理路整然とした記録を残していて、何故か切なさを感じる男だった。
被害者にしてみれば決して許される行為ではないのだが、平均以上の男と思われていた彼が、徹底した殺戮に走った理由を考えると、誰かが救えなかったものか、と残念な気持ちになる。

私は、シリアルキラーをテーマにした作品を十数本所有しているが、ほとんどは駄作である。
多くの犯人が、射殺か自決をしているので、本当のところは霧の中、という理由もあるのだが、勝手に趣旨を変更してまで映像化している作品を観ると無意味な時間に感じてしまう。

日本でも、コピーキャットの起こした事件が何件か記録に残っているが、銃を所有するのが難しいお陰で、幸いな事に犠牲者の数も抑えられている。
銃器による大量殺人といえば、津山事件ぐらいのものだろう。

さて、抑圧された歪なプライドの発露が、無差別殺人の要因だとしても、実行してしまうのは余りにも短絡的だ。
特に日本では、若年層の暴発が多い点からみても、自分たちを抑圧する社会に対して、違う方向性で切り返すか、社会が異常だと感じるのなら自分ぐらいは真っ当に生きてやる、ぐらいの若い気骨が欲しい。
変人でも偏屈でも、それが自分の生き方ならば、無理に他人と比べる必要も無いような気がする。

もし、やるだけやって社会に疲れ果ててしまったのなら、私のように自分自身とだけ戦いながら生きていく選択肢もある。
負けても、死ぬのは自分だけなのだから、それで社会も世界も消えてなくなるならいいじゃないか。
でも、誰か一人でも信じる人がいるのなら、そのために生きる方が、ホイットマンや私よりましな生き方だ、とお勧めしておく。