怖い話

久しぶりに退屈だ、と感じたので、バラエティ系怖い話をネットで眺めていた。
私は霊の類も神も信じていないのだが、こういうのを観る時は、出来るだけ怖がろうと思っている。

最近の映像技術の進歩で、一般人でも画像や映像の加工が簡単になったせいで、よりインパクトの強い映像が多かった。
昔は、どれ?という程度の心霊写真に○が付けられて、やっと判別できる程度だったのに、今は動画でハッキリと霊とやらが自己主張している。
ただ、惜しいのは、不自然なカメラの移動やズームのせいで、明らかにカットインによる映像挿入だと見抜ける物が多いこと。
作り物のインパクトに頼りすぎて、偶然に写りこんだ感じや理不尽な位置に現れる恐怖が失われている。
これじゃ、下手なホラー映画である。


さて、怪談は、いつの時代でも人気のあるジャンルで、私も中高生の頃に、よく知り合いにせがまれて一席設ける事もあった。
怪談には、よくある手法として、次の点を盛り込むと効果的だ。

1.○○市××町のように地名を入れる。
2.実在の事件が起こったことにする(事実であれば尚良し)。
3.誰から聞いた話かを明確にする(親戚ぐらいの距離で)。
4.話術を達者にし、小道具で音などを鳴らす(鉛筆とか靴で)
5.話し終えた後で、質問には曖昧に対応する。

場所やソースにリアリティを持たせ、語り中は相手を引き込むように目線を動かしたり、単調な音を加えて、一種の催眠状態のような空気を作るのが大事だ。
後で質問されても、これは手品士がネタ明かしをするのと同じくらい愚かな行為なので、あくまで半信半疑なまま座を閉じること。
多少の矛盾がある方が、霊の仕業っぽくて余韻が残る。


これだけだと何なので、一つ怪談と言うか、怪奇現象に関係した体験談をご紹介しよう。

これは、私が不動産のバイヤーをしていた頃の話だ。
今から13年ほど前、大阪府S市の分譲マンションの一室が競売に掛かったことがある。
そこは、5棟のマンションと公園や駐車場も完備された大規模なタウンで、利便性や築年数からみても、最低入札価格180万円は激安だった。
業者は、専門の競売雑誌で詳しい内容を知ることが出来るが、一般人は新聞の競売欄やネットの情報だけなので、深く知ることが出来ない。

この物件は、好条件にも係わらず、知り合いの業者(仮にM社)は最低価格で入札し、落札したのは一般の方で330万円だった。
競売が終わり、何日かが過ぎた頃、この落札者から2番手であるM社に電話が入った。

「どうしても、買う訳には・・・いかなくなりまして…」
「そうですか、でも我が社も、あの価格でしか買う気は無いのでね」
「そこを、何とか1割でも結構ですので・・・」
とか言う会話があったそうだ。

入札する場合、保証金として落札予定価格の2割を先に裁判所に入金しなければならない。
そして、落札した場合は、残金を清算するか、2割の予納金を捨てて権利を諦めるという事になっている。
落札者は、この2割どころか、1割でも払ってくれれば、損をしてでも物件の権利を譲る、というのだ。
M社の社長は、これを承諾し、3DKのマンションを入手した。

後日、私も参加して、その部屋に行ってみると、M社の社員と祈祷師が待っていた。
左右の部屋も空き部屋で、勘の良い方ならお気づきの通り、この部屋は曰くつきであった。
まず、玄関を入ると、右に小部屋、奥にリビング、その隣が寝室になっている。
家具類は全て始末されていたが、寝室の壁紙は無く、リビングに続く床には結晶化した粉末が落ちていた。
祈祷師が手際よく祭壇を設置し、お祈りを始めると、開け放した玄関の方に2〜3人の住人が覗きに来ていた。
私は、退屈なだけなので、住人の横を抜け、階段の踊り場で煙草に火を点けた。

この部屋は、6年ほど前に、暴力団関係者の男と情婦、連れ子の6歳の娘が住んでいた。
ある日、情婦の浮気を知った男が激怒し、ベッドの上で情婦の首を絞め、虫の息の体に灯油を掛けたのだ。
凄まじい騒動と悲鳴だったと想像できるが、最悪なことに男が逃げた直後に娘が帰宅した・・・。
時間が経ってから、隣室の住人が様子を見に行くと、呆然と立ち尽くす娘と生焼けの焼死体に対面した。
仰天しながらも消火器を持ち出し、警察を呼んで娘は保護されたのだが、それ以来この娘は失語症に陥ってしまったそうだ。

それから、この部屋は、そのまま放置されていたが、そのうち近所から女の呻き声が聞こえるとか、壁や床を掻き毟る音、娘を探す焼け爛れた幽霊がエレベーターの前に立っていた、という話になった。
両隣は転居し、この部屋は所有者が宙に浮いたので、部屋のローンや修繕積立金が滞納され、事情を考慮して格安で競売に掛けられた、という訳だ。

この事件の顛末は、業者向けの雑誌には新聞記事が掲載されていたので、もちろんM社も私も知っていた。
落札した人は、現地で話を聞いて、M社に泣きついた、というわけだ。

こういう殺人事件や自殺物件は、買い手も借り手も付き難いのが相場だが、通常の1/5の値段なので、お買い得には違いない。
とりあえず、祈祷や内装が終わった頃に、M社の社長に聞いてみたら、売りに出しながら知り合いを住ませるよ、と涼しい顔で言われた。
つまり、所有権を知り合いに移して、その知り合いが売主ならば、M社は仲介に入り買い手の斡旋料が入り、事件の通知は売主が聞いてない、と言えば買い手が後で文句が言えない、という仕組みだ。

ちなみに、この知り合いとやらは、一ヶ月もしない内に他に引っ越して、昼間に時折戻っては、慌しく清掃だけしていたそうだ・・・。

・・・、2年ほどして、この部屋は売れた。
後の話は、知りません。


事実は、怪談より奇なり。
怖いのは、不動産屋の商売根性かな。