兵器産業と疑心暗鬼

戦争、という言葉を聞いただけで、気分が落ちてしまう。
今のご時世では、領土獲得の為より、資源の権利を求めて、人道主義の名の元に戦争を起こす。
例え、相手が独裁主義国家だろうと、軍事政権だろうと、そういう問題は圧政に苦しむ国民の訴えを判断し、国際世論の場で決着を付けるべきで、誰も流血による強制介入など望んではいない。

常に何処かで戦争の火種を探しては、新兵器の実験場にしてしまうステイツの政治は間違っている。
ベトナムでの泥沼の戦いは、終わってみればステイツの敗北ともいえる内容だったし、湾岸戦争も只のイジメでしかなく問題は何も解決していない。
しかし、兵器産業が国政に大きな影響力を持つステイツは、定期的に戦争を仕掛けないと不景気になる、という実に非人道的な実情を抱えている。

ロード・オブ・ウォー』という映画は、バイヤーとして成り上がるうちに「死の商人」になってしまった男の物語である。
武器を求める国や組織があり、武器を売りたがる国がある以上、需要と供給が成り立ってしまうので、その仲立ちをすればするほど、自分だけの判断では抜け出せなくなっていく現状を上手く描いている。
必要悪などという言葉は認めたくないものだが、国家主導の闇ルートで利益を得ている限り、有能がために外れる事を許されない歯車として、主人公は孤独に武器を売り続ける・・・。


日本は、侵略戦争憲法で禁じている唯一の国で、自衛手段としての戦力は維持しつつ、連合国軍に参加しても補給や監視の任以外は行なっていない。
本当は、協力すること自体も問題があるのだが、無能な外務大臣しかいない現状では、きっぱり断るだけの論法や胆力を持ち合わせている政治家すら見当たらない。
私に言わせれば、外務大臣は首相よりも器量のある人物が就任すべき重要な役職であり、諸外国とのパイプを活用できるぐらいの能力が不可欠だと思う。
外国に言わせてみれば、閣僚の名前を覚えない内にコロコロと変わられては、誰と話せばいいのか分からない、と冷やかされる始末だ。
危機的人材不足、それが今の政界の現状である。


昔から、新兵器と呼ばれる物が登場すると、必ずそれを上回る兵器が開発され、更にそれに対抗する兵器が研究され、という終わらないイタチごっこが続いている。
銃、戦車、戦闘機、潜水艦、ヘリ、軍艦、どれも更なる機能向上を目指して開発され、使わないうちに次の世代の兵器を購入する、という不毛な浪費を強いられている。
全ては、敵性国家の軍事力を睨んでのステップアップだというが、本当に必要なのは相手より優れた兵器ではなく、内政の充実と外交の確立である。
軍事費の負担が減ると、得てして国家は健全な成長を遂げるものだ。
敗戦国だった日本とドイツが、軍事に国家予算を計上しなかった御蔭で、どちらも異例の早さで先進国に復帰したのをみても分かると思う。

現在では、自衛のための兵器として、世界ジャーナル判定で、日本とドイツの戦車はベスト3入りしている。
これは総合戦力ではなく、単に性能比較に過ぎないが、こういう物を造れるのも、高度成長期に技術力と工業力を高めた成果である。
無論、造れてはいるが、数と運用の面だけを考えても、実際に防衛の役に立つとは、私は思っていないが。

仮に、日本への武力侵攻があったとする。
可能性としては、太平洋側よりも日本海側の南辺りか、北海道方面からの確率が高いだろう。
現有する自衛力では、二正面から攻められると、領空・領海への侵入を防ぐのは、物量的にも無理。
どれだけ必死に援軍を乞うても、ステイツは戦況を把握するまで、恐らく日本への軍事支援は行わない。
日本を防衛するメリットと費用が釣り合わなければ、先に国連で議題として提出し、連合軍での救援決議が纏まって、やっと来た頃には、日本は程よく焼け野原になっているだろう。
それから日本を襲った不埒な国に制裁という名目で侵攻し、簡単に片付けてから、特需の恩恵に与ろうという腹だ。
合同演習はやっても、有事の際に動いてくれるほど、甘い国ではない。

まぁ、日本を標的にするメリットが他国にあれば、の話で、恐らくそんな国は無いだろう。
嫌がらせにミサイルや弾道弾ぐらいは飛んでくるかもしれないが、常に衛星が監視している状況で、不意打ちを行えるわけもない。
ある程度の予測が立てば、超高度で迎撃するぐらいの兵器と訓練は用意してある。
それでも着弾したら、「遺憾の意」とやらを発動して、同盟国に叱ってもらうぐらいが関の山だ。

雪祭りや災害救助で、大活躍の自衛隊には感謝するべきだが、防衛力まで期待するのは荷が重かろう。

それでも日本の兵器産業が、国産ハイスペックの兵器を研究し、国の予算を貰おうと必死なのは、使わなくても危機管理として維持しなければならない類の分野であり、開発には巨額の投資が動くので、財閥系企業にとっては儲けが見込める仕事だからである。
ステイツの露骨な開発・導入ペースほどではないが、自衛隊も出来れば最新鋭の兵器に変えて欲しい、と毎年頭を捻って予算計上しているわけだ。

いつ起こるかも分からない、或いは別に起こさなくても良い戦争のために、巨額のマネーが動き、世界中で大勢の人間が毎日死んでいる。
生きたくても明日のことさえ保証されない国の人間は、10年後に発病するエイズ麻薬中毒より、今日の生活と快楽のために売春や密売をし、大量に流通する武器で犯罪を犯す。
本当の意味で、明日が見えない社会を日本人は想像することも、経験することもないだろう。

「この、戦車は凄い。最先端ですからね、負ける気がしませんよ」、とステイツの番組で若い兵士が笑う。
君が負けないことで、命を絶たれる相手の事は考えもしないのだろう。
軍事産業という競争経済は、大国の支えでもあり、愚かさの極みでもある。


日本が憲法を改正する日が来たら、私は祖国の唯一の誇りすら失って、何を思えばいいのだろうか。