バランス感覚

睡眠に関しては、徐々に改善が見られてきた感じがする。
日中の気だるさが抜けただけでも、かなり気分が違う。
軽い躁状態に成りかけるので、反動も注意していこうと思う。

副作用と悩む程ではないが、ふらつきが起こる。
注意力の低下は実感しているので、なるべく急がず、確実に雑事を片付ける慎重さが要求されている。
元々、料理一つとってみても、一連の流れを計算して行うのだが、最初にある程度の確認と完成した食卓をイメージしないと、出し忘れや材料の順番を間違える等のトラブルになる。
加えて、ふらつきも出るので、一つ一つ呼吸を整える感じで、何とか家事をこなしている。

昨夜の中途覚醒でトイレから戻るときに、タンスの角に左膝をぶつけてしまい、打ち所が悪かったのか、今も痛い。
油断すると、こういうことが多いので、ふらつきは本当に怖い。


私は、ある事情で山奥で乳幼児期を過ごし、5歳からは父方の実家にて、スパルタ教育で勉強と剣道を仕込まれたので、体は基本的に壮健だ。
足の指に特徴があるらしく、道場の館長に「いい足の裏とタコ指をしている」と言われたことがある。
他人と比べて、足の指が長く、関節が柔軟で先が丸いので、床に張り付くように固定できる。
剣術よりも柔道で重宝される体質らしいが、加えて乳幼児期を裸足で走り回り、木に登ったりしていたので、磨きが掛かったのかもしれない。

剣道の動きは、踏み込みと重心の移動に面白さがある。
同じレベルの研鑽なら、身体的特徴で差が生まれる余地もあり、足指の踏ん張りや柔軟さの御蔭で、僅差で勝ちを拾ったこともある。
ちなみにリーチも、どちらの腕を背中に回しても指先が組めるぐらい長いので、面を取りに来る相手には、よく小手や胴打ちを狙ったものだ。
相手に言わせると、足捌きが独特で読みづらく、目測より剣先が伸びてくるので、と仕合っている気分になった、と失礼な褒め言葉を頂いたことがある。。

ただ、このリーチが長いという点が、カッターシャツを買うときに悪い方に転がって、首や肩のサイズは合ってるのに、手首のボタンが止められないので、大きめの既製品を買うか、小金が入った時にセミオーダーで入手するはめになった。
洋物では、不思議とサイズ通りになるので、日本の既製品は腕が短い仕様になっているのだろう。

余談だが、足の指の特徴は、父親の遺伝が圧倒的に多いので、父も祖父も同じ足を持っていたから、あんなに剣術が強かったのかもしれない。
海軍だった祖父は、不本意な事故で半身不随になり、最後まで従軍しきれなかったことを生涯の悔いと感じていたが、その体で私を通わせた道場に立っても、稽古相手との仕合いで滅多と負けなかった、と館長に聞いたことがある。
杖なしでは長く歩くこともできなかったのに、やはりある程度まで研鑽を積むと、半身不随のハンデさえ超える『打ち勝つ』力が宿るのだなぁ、と尊敬した。

父は趣味人のくせに、プライドが異常に高く、いつも怒っていたので、大人なのに喧嘩してばかりだった。
若い頃にテストドライバー(国際A級ライセンス持ち)で、大変な事故を起こし、荒っぽい外科手術で内蔵を切り取られていたので、幾ら食べても太らず、酒は一滴も受け付けなかった
素面で短気なのだから、相手も扱いに困り果てただろう、と同情する。
一度、殴り合いに発展した現場に居合わせてしまったが、あの細い体の何処から出ているのか不思議なぐらい声に迫力があり、何発か殴られたが、数十発殴り返して、お釣り代わりに倒れた相手を執拗に蹴っていた・・・。

私が暴力を苦手とし、喧嘩では守勢を固持して、相手に骨の固い部分を殴らせるか、疲れさせて組み伏せるという平和主義な専守防衛に徹する原因は、間違いなく父親のせいである。
体格に恵まれた者や体術を持つ側の人間は、簡単に切れたり、暴力に酔ってはいけない、見苦しい上に相手に恨みを残すだけだ。

この無鉄砲な亡父の気性が、我が息子に隔世遺伝していないことを、実は真剣に願っている。

争いを避けるためには、相手に襲いたくなる隙を見せないことと、身なりを整える必要がある。
私は、字名の通り、外出時は杖を使用し、三本足で街に出るが、ひったくりや無用の騒ぎに巻き込まれぬよう、手を出し難い雰囲気を帯びるようにしている。
帽子に鼻髭、薄目のサングラスを着用し、夏でも薄く軽い綿ジャケットを着用、歩行も杖を使っていても背筋は伸ばす。
TPOは守るので、診察時や人と話すときはサングラスを外す。
我ながら、180cmオーバーで、この格好では、かなり襲い難い風体のオーラが出ていると思う。
と、いうか私が相手の立場なら、絶対に手は出さない。


生活でも、外出でも、バランスは大切で、常に基準になる芯が折れなければ、何とか生きていけるものだ。
この病で心の天秤は大きく揺れ動くが、どうにか踏み止まっているのは、芯が思っているより強いせいかもしれない。

歩くだけでも、ふらつきを起こす弱い脳だが、私のタコ足が支えている。