苦手なもの

人間、誰にでも特別に苦手なものが、一つぐらいはある。
フォビア(恐怖症)の種類は、大別して5種類(国際基準)、細分化すると星の数ほど存在する。

よく聞くのが、閉所恐怖症、尖端恐怖症、動物恐怖症、高所恐怖症、水恐怖症、異性恐怖症などが有名どころだろうか。
ほとんどの場合、幼少期の何らかの経験が影響していることが多いが、本人に元となった記憶は無くても、どうしても特定の対象に恐怖を感じてしまう。
他人からすれば、恐怖の基準は曖昧なので、何でコレが怖いんだ?と軽視したり、馬鹿にしがちだが、そんな相手にも理屈で説明しずらい恐怖症の一つぐらいはあるはずだ。

恐怖症が重度になると、パニック障害を起こし、発汗・過呼吸・筋肉の痙攣・目眩・吐き気などを催し、失神に至るケースも珍しくない。
人間も動物である以上、恐怖を感じ続ければ、肉体的にも破綻してしまうのだ。

私は、軽い高所恐怖症だが、今は外出恐怖症の方が重い。
どうしても苦手なものは、人形・・・。
特に日本人形やアンティークドールの類がダメだ。

最近の人形では、【スーパードルフィー:SD】とかいうリアル系人形が、とても苦手だと感じた。
元嫁が、趣味でこのSDを5体も所有していて、交際中に、その精巧さと可愛らしさをアピールしてきた時は、本気で結婚を考え直そうかとまで思ったほどだ。

プレゼントに何が欲しいか?と聞いたら、ボークスショップに連れて行かれ、無数に展示されたSDと、目玉や腕といったパーツが、これでもかと並んでいて、さすがに耐え切れず、適当な理由を付けて通路に退散した。
相手が好きだと言っている物に文句を付けるような気がして、ハッキリとは言わなかったが、地獄絵図に迷い込んだ気分だった。

どうやら欲しい物が決まったようなので、なるべく周りを見ないようにして、お会計を頼んだら、12万円と言われ、出した財布を引っ込め、クレカを渡して「分割で!?」と口にした。
骨董品が高いのは当然だが、新品の人形で十数万円代というのは、予想外で驚いたし、これに払うのか、と思うと忸怩たる気分になったのを覚えている。
商品は、後でオーダーメイドされ、お迎えの儀式を経て、買い主の元に来ると聞いて、少なくとも今は一緒に歩かなくて済むことに感謝した…。


結婚してから、SDが置いてある区画には近づかないように努力したし、元嫁も高価な品なのでショーケースに仕舞っていたので、余りご対面せずに済んだのが、心底ありがたかった。
離婚と共にSDたちも退散したので、今は安心して暮らせる。


別に人形で撲殺されかけた訳でも、深夜に人形に首を絞められたわけでもない、ただあの姿を見ていると、漠然とした不安感が増大するのは確かだ。

と、いうわけで、バイヤー時代も人形系の商品には手を出していない。
GIジョーやバービーですら拒否したくなるからだ。


自分を例に取ると、説明できない衝動がフォビアであり、私のような理屈から入るタイプでも、何故そこまで人形が苦手なのか?と聞かれても答えられない。
PTSDやトラウマと異なるのは、原因がハッキリしない点、これに尽きる。

くわばら、くわばら…。