リアリスト

若い頃は、自分は特別なのではないか、という根拠のない自信や妄想を持つものだ。
今思い返せば、痛い、の一言だが、世間に揉まれ、様々な経験を積んだことで、身に付いた習慣がある。

問題が起こったときに、一番早く、最も確実に、最短距離で解決できる方法を見出すことだ。
知識や経験を総動員して、生き延びる知恵を生み出すのは、言うほど簡単ではないが、貪欲に情報を求めてきた御蔭で、早期解決をしてきた。

ただ、その思考法も、自分に関してだけなので、相手がある場合は、非情な男に見えるようだ。
元妻は、ごく普通の女性だったので、私が問題を解決していくことで、次第に自分に自信を失ってしまい、妻として存在する意義すら見失ってしまった。
出番がないということは、非常に辛いことだ。
気がつけば、下らない男に口説かれ、あっさりとバレるようなアリバイを作り、山のように証拠を残して、私を嘆息させた。

しかし、何事も答えを出すのが、最良の道とはいえない。
私にも愚かな面は多々あるのだし、相手と意見が違うからといって、考えを尊重せずに決めてしまうのは乱暴だった。
夜逃げのように元妻が子供を連れて消えた時に、最短の道は離婚である、と答えを出して離婚届を相手方に郵送したのも、今思えば情のない話である。

愛や情けを持っている人が、心底羨ましい。
理屈抜きでは、誰も信用できない人間よりも、苦労は多くても喜びも大きいだろうから。